本文へスキップ

医療又は福祉の増進を図る活動 Japan Medical Welfare Council

がんの免疫療法についてimmunotherapy

5.がんの免疫療法について

 がん治療には、画像診断で確認できる病巣を狙う局所療法と、視覚的に確認不可能な小さながん細胞も狙える全身療法とがあり、病状に応じて、または局所療法を補完する目的で、この二つの療法を組み合わせます。

全身療法は、保険診療では抗がん剤しかありません。戦略は、がん細胞を直接狙うものですが、同時に正常細胞にもダメージを与えてしまい、また、がん細胞の取り残しも弱点としてあり、後々の再発は避けられません。

他に方法はないか?とのお尋ねには、そもそものがん細胞の生い立ちからご理解いただくところから戦略を考えることになります。 がん細胞は、正常細胞の不良品であり「異物」ではありません。正常細胞の遺伝子が不良品化することは、様々なストレスや自然発生的なミスコピーが原因で日常的にあることなのです。しかし不良品を見つけて廃棄・処理する機能が人間の身体に本来あるので、通常は居場所を見つけて生き残り、大きくなることはなく、がんとは診断されません。

このことはがんの生い立ちとして「不良品処理機能がちゃんと働いていない!」ことが問題であり「この処理機能を元に戻せば」本来のご自身の処理機能でがん細胞はなくなる、大きくならない、という戦略につながります。

「この機能を元に戻す」という方法、治療法は様々あります。科学的にもっとも実績があるのは免疫療法です。その他、天然ラドンガスの吸引(いわゆるラドン温泉)、乳酸菌代謝活性物資などの腸内環境の改善、冬虫夏草などの生薬、などの自然療法、色々のサプリメント、メンタルなアプローチ、運動、睡眠も免疫系の活性効果が示されています。

科学的ながんの免疫療法とは、どのようなものでしょうか? 皆様ご存知のように免疫療法にはインフルエンザ予防ワクチン、結核予防のBCG、乳幼児の予防接種などウイルスや細菌の感染症対策において長い歴史があります。このウイルスや細菌という「異物」の侵入に対する攻撃力を使って、一見まるで「異物」のような「がん細胞」をやっつけることができないか?という研究が長く行われてきました。しかし正常細胞の「不良品」である「がん細胞」を四方八方から研究者達は正常細胞と違う目印がないかと探してきたのですが、未だに「がん細胞」だけの固有の目印が見つかっていません。これががん細胞の目印だ!といわれるものは、実は正常細胞も持っているものばかりなのです。結果、この感染症対策の延長線上での免疫療法では、まだまだがん治療の実績が上がっていません。

これでは不良品処理機能として免疫はあてにならないのか?最初の話と違うじゃないか!言われそうですね。実はウイルスや細菌を攻撃する免疫細胞とは違う役割をもつ免疫細胞が近年発見されました。これをナチュラルキラー細胞(NK細胞)といいます。Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージなどさまざまな免疫グループの細胞が発見される中で一番新しく発見されたものです。このNK細胞は、いわゆる「不良品」を処理することが主たる仕事です。感染症で活躍する免疫細胞を工場警備のガードマンとすれば、不良品処理をするNK細胞は工場内の検品担当者でしょうか。同じ製品のように見えてもわずかな違いも見逃さずラインからはじいていく鋭い目を持った専門家です。

このNK細胞は、いつも身体中をパトロールしてくれています。血液の中はもちろん、血管からすりぬけて臓器の中にも入り込み、監視の目を光らせてくれています。不良品管理の一連の生体防御機能、すなわち不良品を作らせない活性酸素の中和、遺伝子修復、アポトーシスという細胞自爆装置などがある中で、最後の砦として、出来てしまった不良品であるがん細胞に居場所を与えてはならない!とNK細胞が働いています。最初の話は、この免疫細胞の活躍のことだったのです。

従って、がん発症は、このNK細胞が十分に機能していない状態と言い換えることも出来ます。視点を変えて、どうしたらがん細胞が生き延びることができるか考えてみましょう。がん細胞からすればNK細胞を弱らせれば、自分たちの居場所を作れるわけです。「そんな戦略をがん細胞がするの?」と思われるかもしれませんが、がん細胞は「したたかに」NK細胞を弱らせる仕掛けを放ち、着々と陣地を広げます。これをがん細胞の「免疫抑制」といいます。弱らせられたNK細胞は、目の前にいるがん細胞を見てみぬ振りで本来の検品の仕事をしなくなってしまうのです。

免疫療法は、この弱ったNK細胞を再び目覚めさせ、不良品を見つけ、はじき出す、という本来の仕事を再び始めさせるという治療法です。具体的は、ご自身の血管からNK細胞をふくむリンパ球を採取します。献血のときの成分献血のようなイメージですね。すぐに、この弱っているNK細胞を培養センターに運びサイトカインというスパイスを含む栄養剤を与えて元気に復活させます。そしてやる気満々になったNK細胞を再び点滴でご自身の身体に戻します。NK細胞は元の身体に戻った瞬間からがん細胞を攻撃し始めますが、がん細胞が壊れる際に発熱反応が出ますので、通院でも治療が出来るように点滴の加減をしながら計画的にがん細胞という不良品の数を減らしていきます。一般的に、免疫療法は入院の必要はなく仕事や学校、日常生活を続けながら通院で受けられます。

なお、このとき残っているがん細胞も同時に増えようとしますので、このせめぎあいに負けないように、戦略としては点滴の間隔を余りあけず、発熱反応が落ち着いたらすぐに援軍をどんどん送ることになります。

このような先端技術を使った積極的な免疫力の回復戦略が、がん細胞とのせめぎあいに効を奏すれば、抗がん剤のように正常細胞へのダメージもなく、いち早く「元に戻る」目標に前進することができ、厳しい状況をのりこえる展望も見えてきます。

以上の「がん」についての考え方を受け入れることが出来るかどうかが、免疫療法のポイントになります。「クスリで治るはずだ」というがん治療にこだわることなく「ご自身の身体に治す力が本来ある」という考え方にもとづいた治療法です。

よく西洋医学と東洋医学というそれぞれの治療の考え方の違い、戦略の違いがあると言われます。簡単に言うと「決闘モデル」が西洋医学。「闘わずして勝つモデル」が東洋医学。決闘モデルは、相手と対峙し真正面から弾丸=クスリを撃ち込みます。これは自分もその弾丸でやられてしまうリスクがあります。一方「闘わずして勝つモデル」は自分のリスクを最小限にして相手に勝つために相手の力を削ぐ、弱らせることです。あの手この手で相手の足場を崩し、戦力を弱めていけば、決闘しなくてもいつのまにか優勢になっているわけです。まさに「がん細胞」は免疫細胞を弱らせる仕掛け「東洋的戦略」も使って陣地を広げています。免疫療法は「がん細胞」の逆手を取った治療法といえるでしょう。